カナダでの生活が「初めて行くスーパー」から「知っているスーパー」になるまで

初めて行くスーパーは、なんだかもどかしい。

どこに何があるのか……? 慣れ親しんだスーパーなら、「エスカレーターを上って2階、いちばん奥まで進み、右手の棚の真ん中のあたりにある。種類はいくつかあるが、赤いパッケージのものがいちばんおいしい」というのをそんなには考えずとも、ほとんど無意識にできる。しかし、初めて行くスーパーにはこの「感じ」がない。だいたいこのへんにあるはず……というカンを頼りに、進んだと思えば戻ったりする。


ここカナダでの初めてのスーパーはいっそう難しかった。モノのだいたいの値段はわからないし、そもそも存在するかどうか不明なものを目を凝らして探す作業(しかも英語!)の骨の折れること折れること!そのうえスーパーによって価格にけっこうな差があって「こんなに高いものを買ってしまった…」とふとショックを受ける。そして概して日本より高い……。

旅先のスーパーマーケットは楽しいものではあるが、そんな旅情は最初の1週間で終わり、家族の日々の食事をなんとかしていくうえで「スーパーの感じ」が掴めないのは地味に気が滅入ることだった。


「感じ」が掴めてきたのは、契約した家に引っ越して2週間たったくらいのこと。
幸いなことに、生活圏内にスーパーが4つあるので、それぞれを無為にぶらぶらしていると(まじで本当に長時間ぶらついて炭酸水だけ買う、とかやってた)なんとなくの価格帯や特色がわかるようになってきた。例えば、

  • safewayは全体的に普通〜やや高いくらいだが質はそこそこよい。チラシの特売品を買うと安い
  • save on foodsはポイントカードをつくると普通くらいの価格にはなるが、安いものはあまりないかも
  • walmartは全体的に安いが野菜の質が微妙なことがある。肉はそんなに安くない。缶詰や冷凍食品などの日持ちする系はwalmartがダントツで安い
  • 最寄りのローカルスーパーはとにかく野菜が安い!が肉系やシリアルなどは存在しない。アジア系食材はなぜかいっぱいある

それと同時に頭の中に品物の配置の地図ができあがることで、すんなりと買い物ができるようになってきた。行ったり来たりではなく、一筆書きの線で動くことができる。このくらいになってやっと「あ、この場所でも気を張らずに買い物ができるな……」というふうに思えた。


そしてカナダでの生活そのものが「初めてのスーパー」に似ていた。

バスにはどのように乗るのがいいのか、Amazonはどんなふうに受け取るのがいいのか、コインランドリーに服を入れたまま外出してもいいのか、ポイントカードを勧められたときの断り方……。一度知ってしまえば無意識に受け流せることも、全てが初めてで毎回一時停止しては「多分こうだと思うけど」をやっていく。
ひとつひとつは小さなことでも、それが積み重なって、「普通に暮らしていく」のがしんどいと感じていた。

しかし、ここ1週間くらいでカナダでの生活も「ちょっとは知ってるスーパー」になってきたかもしれない。日々の暮らしが落ち着き、イレギュラーに対応する時間が減っていく。毎日のリズムが整うことで、ちょっとずつ新しいことを試してみようという気になってくる。


カナダに来て1ヶ月ちょっと。こんな感じで「なんとなくやっていけるかも」というぼんやりとした自信がついてきた。少しずつではあるが、進んでいけそうな気がする。


すっかり慣れたスーパーで「いつも買ってる玉ねぎ」を手に取りながらそんなことを思った。